皆さんは福沢諭吉が著した「学問のすゝめ」を読んだことはありますか。学問のすゝめは福沢諭吉が執筆したものの中でも最も有名な啓蒙書であり当時のベストセラーです。
一万円札にも描かれている福沢諭吉の「学問のススメ」と言えば
天は人の上に人を造らず
という言葉を残したことで有名です。これは人間が平等であることを説いたことのように聞こえますが「学問のススメ」は封建的な精神を批判し、実用的学問を学ぶことの重要性を問いた書物です。
「天は人の上に人を造らず、人の下に人を造らず」はとくに有名ですが、この部分を正確に引用すると「天は人の上に人を造らず人の下に人を造らずといへり」となります。これは
「天は人の上に人を造らず、人の下に人を造らずと言われているが・・・」という意味になります。
この引用に対してその次の一文には、
「されども今廣く此人間世界を見渡すにかしこき人ありおろかなる人あり貧しきもあり冨めるもあり貴人もあり下人もありて其有様雲と泥との相違あるに似たるは何ぞや」
つまりは、だけども広くこの人間世界を見渡せば賢い人もいれば愚かな人もおり、貧しい人もいれば富める人も、貴人も下人もいてその様々模様は雲泥の違いがある。果たしてこれはどういうことか?と書かれており、その答えとして、
「人は生れながらにして貴賎貧富の別なし。ただ学問を勤めて物事をよく知る者は貴人となり富人となり、無学なる者は貧人となり下人となるなり」
人は生まれながらにして貴賎上下の別はないが、ただ学問を勤めて物事をよく知るものは貴人となり富人となり、無学なる者は貧人となり下人となるのである
と言っています。今回は学問を学ぶことを説く福沢諭吉の学問のすゝめについて解説します。
学問のすゝめ
学問のすゝめは福沢諭吉が明治5年に出版した17編の論文集です。福沢諭吉の主著の一つです。明治初期のベストセラーであり、当時の人々の思想に大きな影響を与えました。特に冒頭の「天は人の上に人を造らず人の下に人を造らず」は非常に有名です。
学問のすゝめの内容を大まかに説明すると、人間の平等を説き、封建道徳社会を批判し、実用的な学問の習得を推奨したものです。学問を外形的に習得するのみならず、文明と精神自体を取り入れる重要性も説いています。
誰もが理解しやすいように平易な比喩を多用しているのも特徴です。封建的な授業思想を否定し、無知な民衆に近代的な民主主義国家を構成する市民であることを意識させることを意図して書かれたものです。学問のすゝめは300万部以上が売れたといわれており、当時の人口が3000万人であることを考えると10人に一人に購入されたという計算になります。
福澤諭吉
学問のすゝめを執筆した福沢諭吉について解説します。
福沢諭吉は幕末期から明治期にかけての啓蒙思想家であり教育者です。慶応義塾大学をはじめとする学校の創設者です。1万円札の肖像にも採用されているので皆さんも一度は肖像画を目にしたことがあると思います。
福澤諭吉の家系は中津藩に属していました。幼少期は大阪と中津藩で過ごし、19歳で長崎に出て蘭学やオランダ語を学びました。その後は大阪の緒方洪庵「適塾」で蘭学を学びました。その後福澤諭吉は江戸にでて蘭学を教えて生計を立てました。
福沢諭吉は安政7年2月26日にはサンフランシスコにわたり、そこで3週間滞在した後ハワイ経由で日本に帰国しました。このアメリカへの渡航は福沢諭吉の思想にも大きな影響を与えました。
慶応4年からは蘭学塾を慶應義塾と名付け教育活動に専念し、門下生を大阪商業講習所や商法講習所で活躍させる一方で、専修学校や東京専門学校、英吉利法律学校の設立を支援しました。
学問のすゝめの書き出しについて
学問のすゝめの書き出しは非常に有名です。「天は人の上に人を造らず人の下に人を造らず」がそれです。「天は人の上に人を作らないし、人の下にも人を作らない、つまり人間は平等である。」という風に巷では解釈されているようです。
ですが、実際に「学問のすゝめ」のこの部分を正確に引用すると以下のようになります。
「天は人の上に人を造らず人の下に人を造らずといえり」つまり、「天は人の上に人を造らず人の下に人を造らずという風に巷では言われているけれども、、、」と書かれています。
この文に対応する文になるところは以下の部分です。
「されども今廣く此人間世界を見渡すにかしこき人ありおろかなる人あり貧しきもあり冨めるもあり貴人もあり下人もありて其有様雲と泥との相違あるに似たるは何ぞや」
しかし、広くこの世界を見渡すと、中には賢い人もいて愚かな人もいる、貧しい人もいれば止める人もあり、高貴な人も下賤な者のいる。この雲泥の差はなんであろうか。
「その次第甚だ明らかなり。されば賢人と愚人との別は、学ぶと学ばざるとによって出来るものなり」それは甚だ明らかだ。賢人と愚人との別は学ぶと学ばざるとに由ってできるものなのだ。
「また世の中にむつかしき仕事もあり、やすき仕事もあり」
「そのむつかしき仕事をする者を身分重き人と名づけ、やすき仕事をする者を身分軽き人という。」
「すべて心を用い心配する仕事はむつかしくして、手足を用いる力役はやすし」
「故に、医者、学者、政府の役人、または大なる商売をする町人、数多の奉公人を召使う大百姓などは、身分重くして貴き者というべし。」
「身分重くして貴ければ自ずからその家も富んで、下々の者より見れは及ぶべからざるようなれども、その本を尋ぬればただその人に学問の力あるとなきとによってその相違も出来たるのみにて、 天より定めたる約束にあらず。」
世の中には難しい仕事もあり、簡単な仕事もある。その難しい仕事をする者は身分が高い人となり、簡単な仕事をする者は身分が低い人となる。頭を使って考え事をする仕事は難しく、手足を用いるだけの仕事は簡単である。
よって、医者、学者、政府の役人、または大きな商売を行う町人や多数の奉公人を雇う大農家などは身分が高く、高貴な者というべきである。
身分が高く高貴であればその家は自ずと富み、下々の者からみればとても及ばないと思うかもしれないが、その本質を訪ねれば、ただその人に学問の力があるかないかによって出る違いであるだけで、天から授かったものではないことは明らかである。
「諺に云く、天は富貴を人に与えずしてこれをその人の働きに与うるものなりと。されば前にも言える通り、人は生れながらにして貴賎貧富の別なし。」「ただ学問を勤めて物事をよく知る者は貴人となり富人となり、無学なる者は貧人となり下人となるなり」
天は富貴を人に与えずその人の働きに与えるものであると、諺でもいう通り、人には生まれながらの貴賤貧富の区別はない。ただ学問を勤めて物事をよく知るものは貴人となり富人となるのであり、無学のものは貧人となり下僕になるに他ならないのである。
学問のすゝめのまとめ
今回は学問のすゝめについて解説しました。学問のすゝめの本当の趣旨を認識いただけましたでしょうか。
学問のすゝめといえば「天は人の上に人を作らず」ばかりが有名になっていますが、実は「人間はなぜ平等にはならないのか」の理由を解説し、成功するための道筋を読者に教えている名著です。人間は平等というけれど、学問を修めるかどうかによって変わるものである、「だから勉強しろ」というのが福沢諭吉が言いたかった趣旨です。
なぜ勉強なんかしなければならないかを子供に伝えるためにも「学問のすゝめ」はおすすめの本ですが、社会人になった大人にとっても人生の啓蒙の書として大いに読む価値があると考えます。
学問のすゝめに書かれた福沢諭吉の思い、これは現在になっても通じているものがあります。
世の中には成功する人間と、一生うだつが上がらない人間がいます。でもうだつが上がらないと思う人は、その理由を、一部の成功した側の人間による搾取によるものだと勘違いする頭の悪い人もいます。でも実際にはそれは間違っています。
人間が貧人となり他人の下僕に成り下がる原因は、その本人が、学問に勤めず、ただ怠惰の中で楽なこと、一時の快楽を求めて長期的な視野を持たないことにあります。福沢諭吉は、そのような将来を見据えないなまくらな人種に喝を入れる意味でも学問のすゝめを執筆したのです。
「ただ学問を勤めて物事をよく知る者は貴人となり富人となり、無学なる者は貧人となり下人となるなり」。人間は学問を勤めて、物事をよく知れば、貴人となり富人になれます。誰でもそうなれます。だれでもそうなれるんですから、せっかくですからあなたもそれを目指して学問を志してください。