皆さんも二枚舌という言葉を聞いたことがあると思います。二枚舌とは「一つのことを二様に言うこと」を言います。辞書で調べてみると「嘘をいうこと」という記載もありますが、私個人は二枚舌がうそをつくことが同義語となるとは思いません。
二枚舌は、使いようによっては、自分の地位、名誉を高め、相反する利益とリスクが交錯する複雑な局面で、自己保全を行うために有効な手法です。
古代中国でも縦横家ともいう遊説家が諸国を訪ね外交と戦略について王に説いて回り、六国の宰相を兼務した人物まで現れました。今回は人生の充足を高める二枚舌という概念について、またその生かし方、事例などについて解説します。
目次
二枚舌とは
二枚舌とは、舌が二枚あると思えるほど嘘をつく、矛盾したことを言うことのたとえです。
一つのことを二通りの言い回しで言うという表現でもあります。あたかも舌が2枚あり、それを状況によって使い分ける様を想像させることから名づけられた言葉です。
辞書には、「嘘をつく」ということが書かれている場合もありますが、二枚舌を使うことがそのままうそをつくことにはつながりません。二枚舌は例えば一つの事象を二種類の言い方で表現することに過ぎないからです。
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二枚舌を使うメリット
二枚舌を使うメリットは以下の通りです。
超過利得を狙える
二枚舌を使えば、本来二者以上が協議して得る妥協点よりも多くの利得を得られる可能性があります。一挙両得、漁夫の利、二兎を追うもの二兎を得る、という状態を作り出すことができます。
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二枚舌を使う際の注意点
二枚舌には以下のような注意点があります。
人ぞれぞれに言い方が違うことがバレる
二枚舌を使うときに注意しなければならないことは、対象それぞれに言っている内容に微妙に違いがあることがバレてしまうことです。うまく口裏を合わせてやっているつもりでも落ち度があり、情報が漏れてしまうと話の内容が異なることが分かってしまいます。
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注意点の回避方法
二枚舌を活用する際の注意点を回避するには以下の方法が有効です。
二枚舌を使う対象同士に接点を持たせない
言い方に違いがばれてしまうという点を回避するためには、二枚舌を使って別の言い回しをしている対象同士が接点を持たないようにする必要があります。接点を作ってしまえば、情報を共有され、話の内容が違うことが確認されてしまうことがあるためです。
印象管理と話術を磨く
二枚舌がバレることを回避するには、相手同士を合わせないように取り計らうことのほか、印象管理と話術を磨くことが必要です。好印象を与え、人の警戒感を緩め、巧みな話術で人の信頼を得ることできれば、二枚舌の効果の半減を防ぐことができます。
二枚舌の事例
ここでは二枚舌の事例について解説します。二枚舌の事例には以下のようなものがあります。
イギリスの中東問題における外交戦略
イギリスは第一次世界大戦において、中東の戦後処理についてアラブ、フランス、ユダヤという勢力に対してそれぞれ協定を結びしました。それらは以下のようなものです。
フサイン=マクマホン協定
フサイン=マクマホン協定はイギリスとメッカの太守であるフサイン・イブン・アリーとの間で結ばれた協定です。内容はオスマン帝国統治下におけるアラブ人の独立を支持したものでした。
アラブの独立を約束することによりオスマン帝国内で反乱を起こさせてオスマン帝国を揺さぶることを目的としていました。ただしこの協定では地中海沿岸部やエルサレムについては含まれていませんでした。
バルフォア宣言
バルフォア宣言はイギリスの外務大臣であるバルフォアが、ユダヤ人のリーダーであるロスチャイルドに送った書簡です。内容は、パレスチナにユダヤ人居住区を建設することを認めるものでした。目的はユダヤ人の金融財閥から戦費を引き出すことでした。
サイクス・ピコ協定
サイクス・ピコ協定は、イギリスとフランス、ロシアにより締結された秘密協定で、オスマン帝国の領土を3国で分割する案を示したものです。フランスとロシア、特に中東におけるフランスの権益を重視した内容です。またパレスチナを国際管理下に置くことが規定されています。
ユダヤ人とアラブ人の立場
イギリスが各勢力と約束した上の3つの約束、協定におけるユダヤ人とアラブ人の立ち位置は以下の通りです。
ユダヤ人の立場
ユダヤ人は、バルフォア宣言で、エルサレム市を含めたパレスチナ地域に独立した国家を建設できると考えていました。ですが、バルフォア宣言にある「ユダヤ人民族居住地建設」とは、独立国家の建設を意味するかといえば、そうとは限らないものです。
サイクス・ピコ協定にあるパレスチナを国際管理下に置くことと、フサイン=マクマホン協定を結んだフサインが主張するエルサレムの行政権はパレスチナにおけるユダヤ人国家の建設と相反するものです。ですが第二大戦でナチスドイツによる大迫害をうけたユダヤ人は、ユダヤ民族による国家建設を熱望し、1948年にイスラエルが建国されるに至ります。
アラブ人の立場
アラブ人はイラクをふくめたアラブ人による統一国家を模索していましたが、アラブ人は、イギリスがシリア南部と南メソポタミアを、フランスがシリアの大半とイラク北部を支配するというサイクス・ピコ協定を知らされておらず、そのため想定していたよりも狭い範囲でしか統治を行えないことに不満を持つことになりました。
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二枚舌のまとめ
今回は二枚舌という言葉とその定義、そしてその活用法と利用する際のリスク、そのリスクを回避する方法などを解説しました。人間の社会は常に正直で誠実だけで物事がうまく回るというわけではありません。
虚々実々の駆け引きと、人間の思い違いなどを的確に活用してその中で嘘をつかずに解釈上の問題で言い回しを操作しながら世間を渡り歩く技術と才覚こそが重要です。
人の顔色を窺って生きるのではなく、誠実な人間でありたい、という世間知らずのきれいごとはここでは横において置き、外交、処世、駆け引き、競争において有効な二枚舌というものの価値を再認識していただく機会になればと思います。
このブログが、皆様の周りに渦巻く現実社会における処世と駆け引き、戦略的思考において優位に立ち、主導権を握るための参考になれば幸いです。